実績報告:硬蛋白質利用研究施設

基礎研究部門

硬蛋白質とこれに関連する生体高分子の特性と生物機能を、細胞、組織、臓器、個体レベルで分子生物学的、細胞生物学的に解析し、新しい生物機能をもつ有用素材開発や生体機能制御をめざした基礎研究を中心に研究活動を推進している。

1. バイオアッセイ系としての三次元立体培養モデルの開発と応用

(1)三次元培養モデル系の確立とバイオアッセイ系としての応用
三次元培養モデルを用い、表皮構造や基底膜形成、さらには抗老化作用、紫外線誘導性細胞障害防御に対する様々な薬剤の作用を解析し、いくつかの薬剤(MMP阻害剤やシリビニンなど)で効果を認めた。創傷治癒初期のモデルとしてフィブリンゲル内での線維芽細胞活性化と組織構築の検討から収縮フィブリンゲル内の特徴的な遺伝子発現亢進(Ⅶ型コラーゲン、MMP-1,2,9)は、メカニカルな張力が重要な要因であることが示された。

(2)皮膚老化制御因子の解析
光老化ヘアレスマウス皮膚の光障害改善薬剤4種の効果を確認しており、マイクロアレイ解析、定量的リアルタイムPCR解析、三次元皮膚モデル系での作用や発現解析を行い、皮膚老化制御因子の特定と機能解明、ならびに皮膚老化指標となりうる遺伝子群の特定に向けた共同研究を行っている。

2. 細胞外マトリックスおよび細胞骨格遺伝子発現制御機構の解明

(1)マウス胚性幹細胞(ES細胞)並びにマウス胚性腫瘍細胞株P19におけるレチノイン酸依存性の神経細胞分化過程において、フィブロネクチン上ではネスチンやソニック・ヘッジホッグのmRNA発現が上昇することから、神経細胞への最終分化が抑制され神経幹細胞レベルに留まることが示され、この制御は抗フィブロネクチン抗体により中和されたことから、フィブロネクチン-ンテグリンを介した神経分化制御の可能性が示唆された。

(2)骨髄由来中胚葉系幹細胞の腱細胞への分化誘導に関する研究
ウマ浅指屈腱の再生医療のための基礎研究として、骨髄由来中胚葉系幹細胞を腱細胞へ分化させる手法について検討している。本年度は、腱組織を抗原として得られた数種類のモノクローナル抗体の抗原を同定したところ、フィブロネクチン、デコリン、COMP(Cartilage oligomeric matrix protein; トロンボスポンジン-5)等に対する抗体であることが判明した。そこで、骨髄由来幹細胞を、腱特異的分化形質の一つであるテノモデュリン発現を上昇させる腱分化誘導培養系で培養したところ、COMPやデコリンの発現上昇が確認されたことから、これらの抗体の有用性が確認された。

3. 下等動物由来硬タンパク質の新機能探索に関する研究

マウス悪性黒色腫B16F10の細胞接着を阻害するミズクラゲ抽出成分について、この細胞接着阻害活性を中和するモノクローナル抗体を用いて精製した。この精製成分にも細胞接着阻害活性が見られたため、トリプシン消化断片の部分アミノ酸配列の解析を行った。その結果、ヘビ毒メタロプロテアーゼであるアスタチンと相同性の高い領域が見られた。今後、cDNAクローニングの後に組換えタンパク質を合成し、細胞接着実験を行う予定である。

4. アクチビンとフォリスタチンの皮膚機能調節における役割の解明

アクチビンとその結合タンパク質であるフォリスタチンは皮膚でも発現しているが、これらの皮膚における役割は完全には明らかにされていない。これらの因子の役割を明らかにするため、セルカルチャーインサートを用いた表皮由来不死化細胞と線維芽細胞との共培養系や、三次元培養皮膚モデル、マウスなどを用いて研究を行っている。

5. 男性ホルモンの皮膚への作用機序の解明

皮膚のコラーゲン含量には性差が認められ、男性ホルモンがその大きな一因であると考えられている。また、男性ホルモンはマウスにおいて体毛の毛周期にも影響する。しかしそれらの機構については不明の点も多いため、男性ホルモンがコラーゲン合成や毛周期にどのような機序で影響を与えるかをin vivo、in vitro両方の実験で検討している。

皮革研究部門

硬蛋白質および関連生体高分子の構造と機能解析を基盤とした有用素材化技術、皮革等動物資源由来および関連物質の製造における新規利用技術、環境保全・保健対策技術の開発に関する研究を行っている。このような観点から、関係大学、公設試および企業との共同研究を積極的に展開している。平成25年度は、JST復興支援事業「ヤマブドウを原料とした化粧品の開発」、NEDO事業「乾燥羊腸の実用化」に関する研究開発を支援した。また、細胞外マトリックスの構成成分であるデコリンの合成酵素異常であるエーロスダンロスシンドローム古庄型の遺伝子治療を目指し、信州大学を主幹とする厚生科研の研究に参画している。海外との共同研究として、南アフリカのMRC(South Africa Medical Research Council)およびARC(Agricultural Research Council)との間で、ハニーブッシュなどのハーブ類の機能に関する共同研究を実施している。

1. 皮革関連事業について

経済産業省「環境対応革」の事業として、革製造副産物の有効利用に関する研究を行い、ゼラチンとウレタンからなり新たな樹脂の創製を目指して研究を行った。その成果の一部を著書「ポリウレタンの原料配合、改質事例集;【8】ゼラチン・ウレタン混合樹脂の創製」に纏めた。また、特許5305320「熱可塑性樹脂」特許権者:農工大ティー・エル・オー(株)、登録日:平成25年7月5日が取得できた。また、天然素材を包含した機能素材の開発に関する共同研究を工学部斉藤研と行った。

2. 羽毛リサイクル研究について

(株)東洋羽毛工業から社会人博士を受け入れ、羽毛由来加水分解ケラチンの有効利用に関する研究を行った。社会人博士課程に入学していた津田祐一氏が、博士(農学)「水鳥羽毛ケラチンの特性解析とその有効利用に関する研究」を取得する事が出来た。

3. サメの高付加価値化に関する研究について

サメ全体を利用するための実用化研究を実施し、特に利用価値の低いさめ肉の有効活用のための研究を行った。その研究成果の一部を研究論文として纏め、Nutritionに発表した。博士課程3年の上原一貴が「閉経後骨粗鬆症に対するシャークプロテインの効果」という研究課題で博士(農学)を取得した。

4. 皮膚老化改善を目指した有効な食品の探索

機能性食品や化粧品原料の効果・効能を明らかにする目的で、動物モデルを用いた評価系の確立、機能性食品素材の効果について研究を行った。平成25年度は共同研究として、(株)資生堂H&BC、(株)日本新薬、(株)新田ゼラチン、(株)キユーピーと行った。ヒアルロン酸を摂取する事での肌への効果を明らかにし、各種研究会で紹介した。

5. 食品による運動器疾患の改善に向けた動物および細胞系評価モデルの確立

モデル動物および細胞を用いて変形性膝関節症に関する研究を実施している。特に、加水分解コラーゲンをはじめとした運動器の機能を改善する機能性食品の効果に関する研究を推進している。社会人博士課程の原左千夫氏が「三次元細胞培養系を用いた機械的負荷モデルの構築」の研究課題で博士(農学)を取得した。

研究協力協定に基づく研究

本研究施設の研究目的である「動物の硬タンパク質とこれに関連する生体分子の基礎から応用にわたる動物資源利用の研究を総合的に発展させる」ために、研究領域を補完し拡充する目的で研究協力協定を結んでいる3研究機関との研究活動内容について、平成25年度の概要を以下に記す。

「皮革及び関連高分子利用分野の研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(東京都立皮革技術センター)

皮革産業振興対応策補助事業「環境対応革開発実用化事業に関する研究」に関連し、「皮革製造副産物の新たな利用用途の開発」において、革の裁断屑の再利用のための研究を行っている。本事業は、皮革研究部門との共同特許「熱可塑性樹脂」の実用化研究である。

「食肉生産に伴う硬タンパク質資源の高度利用研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(日本ハム株式会社)

医療用コラーゲンにウイルス不活化を施すと共にマウスES細胞株等を用いたコラーゲンの神経分化誘導に関する研究にも着手している。また、エラスチンについても組織再生に係る成分の探索研究を実施しており、今後いずれの硬タンパク質素材に関しても食と医療の領域でさらに応用を図るつもりである。

「マトリックスタンパク質の機能開発研究のより一層の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(株式会社ニッピ)

ウマ間葉系幹細胞と腱細胞を識別するモノクローナル抗体の認識抗原の同定を共同で実施した。また、クラゲから抽出した癌細胞接着抑制物質等の同定についてペプチドシークエンス、質量分析を共同して行っている。コラーゲン線維の細胞への作用を簡便な方法で確認する目的で、乾燥コラーゲンシート表面の原子間力顕微鏡解析、細胞機能解析を行った。また、中国瀋陽薬科大学との共同研究でフラボノリグナンであるシリビニンの糖化などのコラーゲン修飾や正常皮膚細胞への作用解明を行っている。