硬タンパク質とこれに関連する生体高分子の特性と生物機能を、細胞、組織、臓器、個体レベルで分子生物学的、細胞生物学的に解析し、新しい生物機能をもつ有用素材開発や生体機能制御をめざした基礎研究を中心に研究活動を推進している。
農林水産省との共同研究により、ヒト間葉系幹細胞の分子マーカーとして知られるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ-1(IDO-1)に対するイヌ組換えタンパク質を合成し、これらを抗原としたモノクローナル抗体を作製した。この抗IDO-1抗体を用いてイヌ脂肪組織由来間葉系幹細胞(cAMSC)における発現動態について、ウェスタンブロッティング並びにFACSにより解析を進めたところ、IDO-1がcAMSCの同定に有用であることが確認された。
JRA・競走馬総合研究所との共同研究により、ウマiPS細胞(eiPSC)からの間葉系幹細胞(eiMSC)の誘導を試みたところ、ヒトで報告されている3つの手法で紡錘形細胞が誘導された。その結果、手法-1では骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)の持ついくつかのCDマーカーが上昇し、さらに骨、軟骨、脂肪分化能(三分化能)を示した。方法-2ではいくつかのCDマーカーの高い発現を示したものの三分化能を示さなかった (eiMSC-2)。方法-3は原始線条から中胚葉を経て誘導させる手法であったが、原始線条や中胚葉のマーカー発現は示したものの、MSCや腱細胞の特性は示さなかった以上の結果より、手法-1によりウマiPS細胞からのMSCの誘導に成功した。
本学・農学部附属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センター(FSセンター)との共同研究により、黒毛和種ウシ廃棄卵巣組織由来線維芽細胞のリプログラミングにより、黒毛和種ウシiPSC・12クローンの樹立に成功した。これらのiPSCはアルカリホスファターゼ陽性を示し、ES細胞マーカーであるNanogの発現、さらに内胚葉、中胚葉、外胚葉への多分化能を示した。
JRA・競走馬総合研究所、日本ハム・中央研究所並びに本学・農学部附属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センターとの各共同研究により、ウマ(JRA)、ブタ(日本ハム)およびウシ(FSセンター)iPSCからの筋分化誘導を試みた。その結果、ブタ,ウマ,ウシの全てにおいて筋原性遺伝子であるPax3,Pax7,筋分化形質であるミオシン重鎖,トロポニンT1,トロポニンT3のmRNA発現が上昇した。
①eiPSCから腱細胞への直接誘導については、腱分化誘導因子として報告されているconnective tissue growth factor(CTGF)およびGDF-6の添加により実施した。その結果、BM-MSCでは大きな変化は見られなかったが、eiMSCでは無添加群と比較してモホーク(Mkx), テノモデュリン(Tnmd)および腱分化に関わる転写因子であるEgr-1の発現上昇が見られた。
②腱細胞の特異的マーカーとして知られているTnmdの機能解析を目的として、ウマ・組換えTnmdの合成とこれを抗原としたモノクローナル抗体の作製を行った。ウマ・Tnmdの全長cDNAをブレビバチルス分泌発現システム(pBIC1〜4)へ導入後Brevibacillus choshinensisへの形質転換を行い可溶性Tnmdを合成した。この組換えTnmdを抗原として抗Tnmd MAbを樹立した。今後は、組換えTnmdを細胞培養系に添加することにより腱組織形成に及ぼす効果について検討する予定である。