実績報告:硬蛋白質利用研究施設

基礎研究部門

硬蛋白質とこれに関連する生体高分子の特性と生物機能を、細胞、組織、臓器、個体レベルで分子生物学的、細胞生物学的に解析し、新しい生物機能をもつ有用素材開発や生体機能制御をめざした基礎研究を中心に研究活動を推進している。

1. バイオアッセイ系としての三次元立体培養モデルの開発と応用

(1)三次元培養モデルのバイオアッセイ系としての応用
表皮−真皮間相互作用の影響を検討した。表皮層が産生する因子が真皮線維芽細胞の分化に与える影響を調べたところ、表皮由来のIL-1が真皮線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を抑制している可能性が示唆された。また、新規ペプチドとしてコラーゲン結合ドメイン含有EGF(CBD-EGF)の作用を皮膚モデル系で解析した。真皮モデル上層局所に高濃度に残存し, 表皮基底細胞増殖や表皮構造に影響することが示された。

(2)自己産生型培養真皮モデルを活用した皮膚モデルの検討
線維芽細胞含有フィブリンゲルを用いた培養皮膚モデルでは、2〜4週間でフィブリンがⅠ型コラーゲンに置換わっていた。基底膜へのラミニン332の沈着が抑制されたが、真皮側は線維芽細胞密度が高く、かつ細胞-ECM相互作用のため、Ⅳ型コラーゲン、エラスチン、フィブリリン1の産生沈着が大きく促進された。また、太いコラーゲン線維形成が観察された。

(3)皮膚光老化制御因子の解析
光老化ヘアレスマウスの光傷害皮膚を改善する4薬剤を選定した。この改善皮膚を用いてマイクロアレイ解析し、発現変動率が大きく、かつ発現量を考慮した方法で絞り込み、それらをリアルタイムPCRで定量的に解析中である。

2. 細胞外マトリックスおよび細胞骨格遺伝子発現制御機構の解明

(1)マウス胚性幹細胞(ES細胞)並びにマウス胚性腫瘍細胞株P19におけるレチノイン酸依存性の神経細胞分化過程において、フィブロネクチン上ではニューロフィラメントや神経特異的クラスⅢβ-チューブリンのmRNA発現が抑制され,ネスチンやソニック・ヘッジホッグのmRNA発現が上昇することから、神経細胞への最終分化が抑制され神経幹細胞レベルに留まることが示された。さらにα5β1インテグリンのリガンドの合成ペプチド(GRGDS)上においても同様の結果を示したことから、フィブロネクチンによる当該インテグリンを介した神経分化制御の可能性が示唆された。

(2)骨髄由来中胚葉系幹細胞の腱細胞への分化誘導に関する研究
ウマ浅指屈腱の再生医療のための基礎研究として、骨髄由来中胚葉系幹細胞を腱細胞へ分化させる手法について検討している。本年度は、骨髄由来幹細胞をコラーゲンゲル内で培養することにより、腱特異的分化形質の一つであるテノモデュリン発現が生体腱組織レベルまで上昇することを見いだした。さらに、このコラーゲンゲル内培養にGSK-3阻害剤を添加することでテノモジュリンに加え、XIV型コラーゲンやフィブロモデュリン等の腱分化マーカーの発現も上昇することを確認した。

3. 下等動物由来硬タンパク質の新機能探索に関する研究

中性塩可溶性画分を抗原として作出し、ラットおよびヒトの大腸粘膜ムチンと交差反応を示すモノクローナル抗体を用いて、ミズクラゲ幼生(エフィラ)由来cDNAライブラリーを免疫化学的にスクリーニングした結果、ガーディン様タンパク質がクローニングされた。さらに、この抗体を用いたウェスタンブロットにより解析したところ、イヌ腎尿細管上皮細胞株MDCKおよびヒト大腸がん細胞Caco-2およびLovoからの分泌物と反応したため、現在、この分子を同定している。

4. 細胞外マトリックス調節因子としてのTGF-βファミリーの役割とその結合蛋白質の利用に関する研究

フォリスタチンファミリー蛋白質はTGF-βスーパーファミリーに結合してその作用を阻害するため、TGF-βスーパーファミリー阻害剤としての利用が期待できる。フォリスタチンファミリー蛋白質にコラーゲン結合活性を付加することにより組織局在性を付与することが出来るのではないかと期待し、フォリスタチンファミリー蛋白質にMMP-2のコラーゲン結合ドメインを付加した蛋白質の発現ベクターを構築し、その産生に適した蛋白質の発現系を検討している。また、天然型フォリスタチンのCHO細胞での発現系と、無血清培地を用いた簡便な精製法を確立した。

5. 男性ホルモンによる皮膚コラーゲン発現および毛周期の調節機構に関する研究

皮膚のコラーゲン含量には性差が認められるが、皮膚の性差が生じる機構については不明の点も多い。これまでマウス皮膚において男性ホルモンがコラーゲン発現を上昇させることを明らかにしており、現在はその機構の解明を試みている。また、雄マウスにおいてテストステロンの欠如が休止期の毛包を成長期へと移行させる現象が観察されており、その機構についても解明を試みている。

皮革研究部門

硬蛋白質および関連生体高分子の構造と機能解析を基盤とした有用素材化技術、皮革等動物資源由来および関連物質の製造における新規利用技術、環境保全・保健対策技術の開発に関する研究を行っている。このような観点から、関係大学、公設試および企業との共同研究を積極的に展開している。平成24年度は、水産バイオマスの資源化技術開発事業「海洋バイオマス高付加価値化技術開発~化粧品・生化学資材としての応用を目指した機能解明~」を実施した。細胞外マトリックスの構成成分であるデコリンの合成異常であるエーロスダンロスシンドローム古庄型の遺伝子治療を目指し、信州大学を主幹とする研究に参画している。海外との共同研究として、南アフリカのMRC(South Africa Medical Research Council)およびARC(Agricultural Research Council)との間で、ハニーブッシュなどのハーブ類の機能に関する共同研究を開始した。

1. 皮革関連事業について

経済産業省「環境対応革」の事業として、革製造副産物の有効利用に関する研究を行い、ゼラチンとウレタンからなり新たな樹脂の創製を目指して研究を行った。その成果の一部を9th Asia International Conference of Leather Science and Technologyにおいて口頭発表を行った。また、特許 5011471「皮革改質剤」特許権者:(国)東京農工大学、大阪化成品㈱、東京都、登録日:平成24年6月15日が取得できた。
天然素材を包含した機能素材の開発に関する共同研究を工学部斉藤研と行った。

2. 羽毛リサイクル研究について

(株)東洋羽毛工業から社会人博士を受け入れ、羽毛由来加水分解ケラチンの有効利用に関する研究を行った。その成果の一部が野村義宏、:特許4931010「毛髪処理方法」特許権者:東洋羽毛工業(株)、(国)東京農工大学、登録日:平成24年2月24日として認められた。

3. サメの高付加価値化に関する研究について

サメ全体を利用するための実用化研究を実施し、特に利用価値の低いさめ肉の有効活用のための研究を行った。特許4998880「骨粗鬆症の予防又は改善剤」特許権者:農工大ティー・エル・オー(株)、登録日:平成24年5月25日を取得した。サメの総合利用を目指し、水産中央研究所と共同で研究会を組織し、サメに関するこれまでの研究成果を紹介した。
中華食材を製造・販売している(株)中華・高橋、㈲田向商店と共同研究を行い、その成果の一部を雑誌や研究会で発表した。

4. 機能性食品や化粧品原料の効果・効能研究について

機能性食品や化粧品原料の効果・効能を明らかにする目的で、動物モデルを用いた評価系の確立、機能性食品素材の効果について研究を行った。平成24年度は、共同研究として、(株)資生堂H&BC、(株)日本新薬、(株)新田ゼラチン、(株)キユーピーと行った。また、海藻サイレージ由来のアルギン酸オリゴ糖の機能評価として、皮膚状態改善に関する研究を行い、化粧品の試作品をアグリビジネスフェアーで紹介した。

5. 運動器疾患における機能性食品の効果に関する研究について

モデル動物および細胞を用いて変形性膝関節症に関する研究を実施している。特に、加水分解コラーゲンをはじめとした運動器の機能を改善する機能性食品の効果に関する研究を推進している。

研究協力協定に基づく研究

本研究施設の研究目的である「動物の硬タンパク質とこれに関連する生体分子の基礎から応用にわたる動物資源利用の研究を総合的に発展させる」ために、研究領域を補完し拡充する目的で研究協力協定を結んでいる3研究機関との研究活動内容について、平成24年度の概要を以下に記す。

「皮革及び関連高分子利用分野の研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(東京都立皮革技術センター)

NEDO大学発事業創出実用化開発費助成事業採択課題「皮革製造副産物の再利用に関する研究開発」において、クロムなめし革の裁断屑の再利用のための研究をスタートさせた。本事業は、特願2005-28244「皮革改質剤」の実用化研究であり、都立皮革技術センター、(株)大阪化成品との共同出願である。本年度も,引き続き実用化研究を継続している。本年度は引き続き、自動車用への応用を試みた。また、廃棄物の有効利用として、安価で有効な革屑の溶解方法についても検討した。さらに皮革のDNA鑑定方法の確立に向けて共同研究を行っている。

「食肉生産に伴う硬タンパク質資源の高度利用研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(日本ハム株式会社)

鶏由来低分子コラーゲンペプチドの新規機能性について検証を進めており、自然発症性高血圧ラットにおける血圧上昇抑制作用やヒト血管内皮細胞におけるTNFα添加による血管内皮炎症を抑制する血管保護効果を示すことを確認した。また、医療用コラーゲンにウイルス不活化を施すと共にマウスES細胞株等を用いたコラーゲンの神経分化誘導に関する研究にも着手しており、今後いずれの硬タンパク質素材に関しても食と医療の領域でさらに応用を図るつもりである。

「マトリックスタンパク質の機能開発研究のより一層の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(株式会社ニッピ)

昨年に引き続き、ウマ腱の障害についての研究においてヒアルロン酸、コラーゲンの分解に関わる酵素の測定について、共同して行った。また、クラゲから抽出した癌細胞接着抑制物質等の同定についてペプチドシークエンス、質量分析を共同して行っている。