実績報告:硬蛋白質利用研究施設

基礎研究部門

硬蛋白質とこれに関連する生体高分子の特性と生物機能を、細胞、組織、臓器、個体レベルで分子生物学的、細胞生物学的に解析し、新しい生物機能をもつ有用素材開発や生体機能制御をめざした基礎研究を中心に研究活動を推進し、現在5つのテーマを主に展開している。

1. バイオアッセイ系としての三次元立体培養モデルの開発と応用

(1)三次元培養モデル系の確立とバイオアッセイ系としての応用
創傷治癒関連因子の発現に及ぼす表皮‐真皮間相互作用の影響を検討した。表皮層が産生するIL-1が真皮線維芽細胞のCOX2発現を促進してPGE2の分泌を促し、線維芽細胞から分泌されるPGE2が表皮層の細胞増殖を促進する可能性が示唆された。

(2)自己産生型培養真皮モデルを活用した皮膚モデルの検討
フィブリンゲル内での線維芽細胞活性化と組織構築を検討した。収縮フィブリンゲル内の線維芽細胞は、収縮コラーゲンゲルの真皮モデルと比較し、III、IV、V、VII型コラーゲン、エラスチン,フィブリリン1遺伝子発現が上昇した。このモデルを用い、良好な表皮重層構造と分化を伴う皮膚モデル作製が可能となった。

(3)皮膚老化制御因子の解析
光老化ヘアレスマウス皮膚の光障害改善薬剤4種の効果を確認した。マイクロアレイ解析、定量的リアルタイムPCR解析、皮膚モデル系での作用や発現解析を行い、皮膚老化制御因子の特定と機能解明を目指す。

2. 細胞外マトリックスおよび細胞骨格遺伝子発現制御機構の解明

(1)細胞分化過程における細胞外マトリックス、細胞骨格遺伝子発現制御機構の解析
マウス筋芽細胞株C2C12の筋分化に伴うXII型コラーゲン発現上昇メカニズムを解明するため、p53がん抑制蛋白質ファミリーの一つであるΔNp73安定発現C2C12株を作出し持続性アスコルビン酸存在下での長期培養を行ったところ、細胞間へのXII型コラーゲンの蓄積に伴いコラーゲン線維径が増大することを証明した。このことは筋の成長過程においてΔNp73発現が筋間コラーゲン線維の性状を制御していることを示唆している。また、マウス胚性腫瘍細胞株P19におけるレチノイン酸依存性の神経細胞分化過程において、神経線維伸張とカルモデュリンキナーゼδとの関連性を見いだした。

(2)骨髄由来中胚葉系幹細胞の腱細胞への分化誘導に関する研究
ウマ浅指屈腱の再生医療のための基礎研究として、骨髄由来中胚葉系幹細胞を腱細胞へ分化させる手法について検討している。本年度は、幹細胞を腱細胞の遺伝子発現プロファイリングを行ったところ、腱特異的蛋白質であるテノモジュリンに加え、XIV型コラーゲンが腱分化マーカーとして適していることを確認した。また、テノモデュリン発現がGDF-7(BMP-12)添加およびコラーゲンゲル内培養下で誘導されることを見いだした。

3. 下等動物由来硬タンパク質の新機能探索に関する研究

ミズクラゲ中性塩可溶性画分を抗原として作出したモノクローナル抗体が、ラットおよびヒトの大腸粘膜ムチンと交差反応を示すことを見いだした。このことは二胚葉下等動物であるクラゲと高等動物のムチンにおける共通抗原性の存在することを示している。現在、本抗体によりヒト大腸がん組織を検索することにより、分子マーカーとしての有用性を検討している。

4. 細胞外マトリックス調節因子としてのTGF-βファミリーの役割とその結合蛋白質の利用に関する研究

フォリスタチンファミリー蛋白質はTGF-βスーパーファミリーに結合してその作用を阻害するため、TGF-βスーパーファミリー阻害剤としての利用が期待できる。現在、フォリスタチンファミリー蛋白質にコラーゲン結合活性を付加することにより組織局在性を付与することが出来るのではないかと期待し、フォリスタチンファミリー蛋白質にMMP-2のコラーゲン結合ドメインを付加した蛋白質の発現ベクターを構築しており、その産生に適した蛋白質の発現系を検討している。

5. 皮膚におけるコラーゲン発現の性差

皮膚のコラーゲン含量には性差が認められるが、皮膚の性差が生じる機構については不明の点も多い。マウスで生後0日から120日まで雄と雌の皮膚におけるコラーゲン発現の変化を調べたところ、生後30日で雄の皮膚における線維性コラーゲンの発現が雌に比較して増加し始め、120日まで高い発現を維持した。雄における皮膚の線維性コラーゲン発現は去勢により著しく低下し、テストステロンの補充により回復した。しかし、培養線維芽細胞にテストステロンを添加してもコラーゲン発現の増加は観察されず、テストステロンは間接的に皮膚のコラーゲン発現に影響していることが示唆された。

皮革研究部門

硬蛋白質および関連生体高分子の構造と機能解析を基盤とした有用素材化技術、皮革等動物資源由来および関連物質の製造における新規利用技術、環境保全・保健対策技術の開発に関する研究を行っている。このような観点から、関係大学、公設試および企業との共同研究を積極的に展開している。平成23年度は、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業(現場提案型)研究課題「ヤマブドウ(果実・葉・蔓・枝)まるごと利用したアンチエイジング素材の開発」および水産バイオマスの資源化技術開発事業「海洋バイオマス高付加価値化技術開発~化粧品・生化学資材としての応用を目指した機能解明~」を実施した。

1. 皮革関連事業について

経済産業省「環境対応革」の事業として、革製造副産物の有効利用に関する研究を行い、ゼラチンとウレタンからなり新たな樹脂の創製を目指して研究を行った。その成果の一部をIULTCSにおいて口頭発表を行った。また、メルクス㈱から受託研究員を引き受け、リサイクル革に関する共同研究を行った。

2. 羽毛リサイクル研究について

(株)東洋羽毛工業から社会人博士を受け入れ、羽毛由来加水分解ケラチンの有効利用に関する研究を行った。その成果の一部が特許4707154 可溶化ケラチンの製造方法 発明者:野村義宏、相原道郎;特許権者:農工大ティー・エル・オー(株)として認められた。

3. サメの高付加価値化に関する研究について

サメ全体を利用するための実用化研究を実施し、特に利用価値の低いさめ肉の有効活用のため「すかいらーく研究財団」の資金を獲得し、研究を行った。引き続き、(株)中華・高橋と共同研究を行い、その成果の一部を雑誌や研究会で発表した。

4. 機能性食品や化粧品原料の効果・効能研究について

機能性食品や化粧品原料の効果・効能を明らかにする目的で、動物モデルを用いた評価系の確立、機能性食品素材の効果について研究を行った。平成23年度は、共同研究として、(株)資生堂H&BC、(株)日本新薬、(株)新田ゼラチン、(株)日産科学、(株)キユーピーと行った。また、今年度から海藻サイレージ由来のアルギン酸オリゴ糖の機能評価として、皮膚状態改善に関する研究を行っている。2年間で、化粧品への用途開発に向けた機能性を評価する予定である。

5. 運動器疾患における機能性食品の効果に関する研究について

モデル動物および細胞を用いて変形性膝関節症に関する研究を(株)日本ハム中央研究所、甲陽ケミカル、(株)丸善製薬との共同研究を実施している。特に、加水分解コラーゲンをはじめとした運動器の機能を改善する機能性食品の効果に関する研究を推進している。

研究協力協定に基づく研究

本研究施設の研究目的である「動物の硬タンパク質とこれに関連する生体分子の基礎から応用にわたる動物資源利用の研究を総合的に発展させる」ために、研究領域を補完し拡充する目的で研究協力協定を結んでいる3研究機関との研究活動内容について、平成23年度の概要を以下に記す。

「皮革及び関連高分子利用分野の研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(東京都立皮革技術センター)

NEDO大学発事業創出実用化開発費助成事業採択課題「皮革製造副産物の再利用に関する研究開発」において、クロムなめし革の裁断屑の再利用のための研究をスタートさせた。本事業は、特願2005-28244「皮革改質剤」の実用化研究であり、都立皮革技術センター、(株)大阪化成品との共同出願である。本年度は、コラーゲンで鞣したコラーゲンレザーの評価のため、試験靴を作製し評価を行った。

「食肉生産に伴う硬タンパク質資源の高度利用研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(日本ハム株式会社)

豚エラスチンペプチドの抗しわ・美肌作用について検証を進めており、中高年者がエラスチンペプチドを継続摂取すると皮膚弾力性が改善することを確認した。また、軟骨抽出物(II型コラーゲンおよびコンドロイチン硫酸を含む)の関節における有用性を明らかにするためにいくつかの系で研究を実施している。今回はウサギ滑膜由来線維芽様細胞系において鶏軟骨抽出物の添加がヒアルロン酸合成促進に作用することを示唆した。今後はモデル動物を用いた検証も行う計画である。

「マトリックスタンパク質の機能開発研究のより一層の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(株式会社ニッピ)

昨年に引き続き、ウマ腱の障害についての研究においてヒアルロン酸、コラーゲンの分解に関わる酵素の測定について、共同して行った。また、クラゲから抽出した癌細胞接着抑制物質等の同定についてペプチドシークエンス、質量分析を共同して行っている。