実績報告:硬蛋白質利用研究施設

基礎研究部門

硬蛋白質とこれに関連する生体高分子の特性と生物機能を、細胞、組織、臓器、個体レベルで分子生物学的、細胞生物学的に解析し、新しい生物機能をもつ有用素材開発や生体機能制御をめざした基礎研究を中心に研究活動を推進している。現在3つのテーマを主に展開している。

1. バイオアッセイ系としての三次元立体培養モデルの確立とその応用

(1)培養真皮モデルでの線維芽細胞活性に及ぼすメカニカルストレスの影響
開発した屈曲負荷培養を用いて、真皮モデル内の線維芽細胞活性への影響や形態(収縮、歪みなど)への力学的負荷の影響を検討している。今期は、この培養系をマクロな形態変化の評価に応用できるか検討した。「シワ」のような形態変化を組織学的解析とシルフロを使用したレプリカ解析することが可能となった。シワ固定機構などの解析に今後展開できるか検討中である。

(2)三次元培養モデル系の確立とバイオアッセイ系としての応用
再構成IV型コラーゲン(IV型C)会合体が三次元培養皮膚モデルの表皮構造と機能に及ぼす影響を検討した。ウシレンズカプセルから酢酸抽出したIV型Cを用いて、三次元培養皮膚モデルの表皮構造、基底膜形成に及ぼす影響を検討した。コントロール培養系やペプシン処理IV型Cを同じ条件で沈着させた培養系に比べ、表皮細胞層の層数(表皮の厚さ)が有意に2倍以上に増加し、かつ基底細胞層の細胞密度も約2倍に有意に増加していた。表皮分化マーカーは表皮上層部で、基底膜成分が表皮-真皮結合部で観察された。三次元培養皮膚モデルにIV型C会合体を予め沈着させることにより、表皮角化細胞の増殖が促進され、安定した重層表皮構造を形成できた。

2. 細胞外マトリックスおよび細胞骨格遺伝子発現制御機構の解明

(1)細胞分化過程における細胞外マトリックス、細胞骨格遺伝子発現制御機構の解析
マウス筋芽細胞株C2C12の筋分化に伴うXII型コラーゲン発現上昇において、Paxファミリー並びにp53がん抑制蛋白質ファミリーの関与が示唆された。また、マウス胚性腫瘍細胞株P19におけるレチノイン酸依存性の神経細胞分化に伴うクラスIVa β-チューブリン発現制御において、AP-1並びにp53がん抑制蛋白質ファミリーの関与が示唆された。また、マウス軟骨前駆細胞ATDC5の軟骨分化過程において、分泌型ヒアルロニダーゼのうち、Hyal-2の発現が上昇することを見出した。

(2)腱細胞の分子マーカー検索のための分子生物学的、生化学的研究
ウマ浅指屈腱の再生医療のための基礎研究として、骨髄由来中胚葉系幹細胞を腱細胞へ分化させる手法について検討している。本年度は骨髄幹細胞と腱細胞の特性の違いについて検討を行ったところ、テノモジュリンに加えて43 kDaコネキシンのmRNA発現に大きな差の見られることが判明した。

3. 細胞外マトリックス調節因子としてのTGF-βファミリーの役割とその結合蛋白質の利用に関する研究

(1)フォリスタチンファミリー蛋白質の性状解析
フォリスタチンファミリー蛋白質はTGF-βスーパーファミリーに結合してその作用を阻害するため、TGF-βスーパーファミリー阻害剤としての利用が期待できる。現在そのための基礎的な知見を収集しており、フォリスタチンファミリー蛋白質のリガンド結合部位だけでは生物活性を示さないこと、また、オートクリンでTGF-βスーパーファミリーが作用する場合と外部からTGF-βスーパーファミリーを添加した場合ではフォリスタチンファミリー蛋白質の効果に差があることなどを明らかにした。

(2)皮膚創傷治癒におけるアクチビンの役割と、線維芽細胞におけるアクチビン発現誘導因子
アクチビンは皮膚創傷治癒時に発現量が増加し、皮膚創傷治癒過程の調節に関与しているものと考えられている。創傷治癒時におけるアクチビンの発現増加にはインターロイキン1(IL-1)による刺激が重要であることが示唆されているが、 IL-1によるアクチビン発現誘導にはMAPキナーゼ経路とNFB経路が関与しており、さらにIL-1により分泌が増加するPGE2も、オートクリン作用によりアクチビン発現を刺激していることが判明した。

皮革研究部門

硬蛋白質および関連生体高分子の構造と機能解析を基盤とした有用素材化技術、皮革等動物資源由来および関連物質の製造における新規利用技術、環境保全・保健対策技術の開発に関する研究を行っている。このような観点から、関係大学、公設試および企業との共同研究を積極的に展開している。平成21年度は、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)大学発事業創出実用化開発費助成事業(マッチングファンド)に1課題の研究を行っている。

1. 皮革関連事業について

NEDO大学発事業創出実用化開発費助成事業採択課題「皮革製造副産物の再利用に関する研究開発」において、クロムなめし革の裁断屑の再利用のための研究を行ってきた。本年度の事業は、都立皮革技術センターおよびメルクス㈱との共同研究であり、用途開発を中心に行った。

2. 羽毛リサイクル研究について

平成16~17年度に経済産業省新規産業創造技術開発費補助金(エネルギー使用の合理化に資するもの)採択事業「羽毛寝具リサイクル品からの化粧品原料製造に関する実用化研究」として㈱東洋羽毛工業の白河工場に加水分解ケラチン実験棟を新設し、実用化に向けた研究を行っている。現在も共同研究を継続中であり、商標名「ケラタイド」を化粧品原料として試験販売を開始し、修飾ケラチンの開発も行っている。

3. サメの高付加価値化に関する研究について

平成13~15年NEDO産業技術研究助成事業採択課題「廃棄物ゼロを目指したサメの有効利用」において、サメの全てを有効利用するための基礎研究を行い、平成17年度で大学発事業創出実用化開発費助成事業(事前調査)採択課題「フカ肉を原料とした高付加価値食品の開発」(資金提供事業者、(株)中華・高橋)において、フカ肉の食理機能に関する研究を行った。平成18年度大学発事業創出実用化開発費助成事業採択課題「サメの高付加価値化に関する研究開発」(資金提供事業者、(株)中華・高橋、(株)ホソカワ粉体技術研究所)からサメ全体を利用するための実用化研究に現在取り組んできた。その成果として、PCT/JP2008/000079「骨粗鬆症の予防又は改善剤」を出願した。また、平成21年3月からコラーゲンを高含有した化粧品を発売した。サメ肉加水分解物の骨粗鬆症改善効果の検証を中心に研究を行い、2010年3月の日本農芸化学会で発表する予定である。

4. 機能性食品や化粧品原料の効果・効能研究について

機能性食品や化粧品原料の効果・効能を明らかにする目的で、動物モデルを用いた評価系の確立、機能性食品素材の効果について研究を行った。平成21年度は、共同研究として、㈱資生堂H&BC、キスコフーズ(株)、コックフーズ(株)と行った。また、今年度からヤマブドウの果皮抽出物の機能評価として、皮膚状態改善に関する研究を行っている。3年間で、化粧品への用途開発に向けた機能性を評価する予定である。

5. 運動器疾患における機能性食品の効果に関する研究について

モデル動物および細胞を用いて変形性膝関節症に関する研究を(株)協和発酵バイオ(株)、明治製菓(株)、ゼリア新薬工業(株)との共同研究を実施している。特に、加水分解コラーゲン、グルコサミンやコンドロイチン硫酸の効果に関する研究を推進している。2010年1月8日に第6回グルコサミン研究会学術集会を主催し、200名を超える多くの参加者を得て無事終了した。

6. 天然羊腸の改質に関する研究

ソーセージのケーシンである天然羊腸は、天然であるが故、ソーセージ充填機に装着する際に破損することを予防するため、予備選別により約10%が廃棄されている。廃棄率を低くする事を目的として、加水分解コラーゲン処理することで羊腸の改質を行った。本事業は、(株)松永商会を出資企業とした平成21年度大学発事業創出実用化開発費助成事業に採択され、特願2009-265153「改質天然ケーシング」を出願している。

研究協力協定に基づく研究

本研究施設の研究目的である「動物の硬タンパク質とこれに関連する生体分子の基礎から応用にわたる動物資源利用の研究を総合的に発展させる」ために、研究領域を補完し拡充する目的で研究協力協定を結んでいる3研究機関との研究活動内容について平成21年度の概要を以下に記す。

「皮革及び関連高分子利用分野の研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(東京都立皮革技術センター)

NEDO大学発事業創出実用化開発費助成事業採択課題「皮革製造副産物の再利用に関する研究開発」において、クロムなめし革の裁断屑の再利用のための研究をスタートさせた。本事業は、特願2005-28244「皮革改質剤」の実用化研究であり、都立皮革技術センター、㈱大阪化成品との共同出願である。本年度は、コラーゲンで鞣したコラーゲンレザーの評価のため、試験靴を作製し評価を行った。

「食肉生産に伴う硬タンパク質資源の高度利用研究の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(日本ハム株式会社)

豚プラセンタ(Ⅲ型、Ⅳ型およびⅤ型コラーゲンを含む)摂取による作用を明らかにするためにいくつかの系で研究を開始している。今回は豚プラセンタエキスの美白効果(メラニン産生阻害活性)の検証を行っている。マウスB16メラノーマ細胞に豚プラセンタエキス、Ⅲ型、Ⅳ型およびⅤ型コラーゲンの加水分解物を添加し、一定時間後に細胞中のメラニン産生量を測定した。現在、それらの作用メカニズムと効果本体についても解析中である。また、昨年度の成果であるエラスチンペプチドのマウス皮膚水分量向上作用を論文投稿した。

「マトリックスタンパク質の機能開発研究のより一層の充実とこの分野の学術及び科学技術の発展」のための研究協力(株式会社ニッピ)

昨年に引き続き、ウマ腱の障害についての研究においてヒアルロン酸、コラーゲンの分解に関わる酵素の測定について、共同して行った。また当研究所で研究している、クラゲから抽出した癌細胞接着抑制物質の同定についてペプチドシークエンス、質量分析を共同して行っている。